カテゴリー別アーカイブ: 四季彩

氷河の大地に現れた涸沢“光の国”(北アルプス穂高連峰・涸沢)

160820sikip「山の日」を盛り上げるイベントで出現した涸沢の夜景。ステージの照明に霧が流れ、幻想的な何かを暗示するかのような光景が浮かび上がった=7月29日午後8時32分、ニコンD3S、ニコンEDニッコールAFVR80~400ミリ

盛夏を迎えた北アルプス穂高連峰の氷河の大地・涸沢カール。7月29日、テント場の夜景は、今まで見たことのない衝撃的な感動の光景だった。
宇宙の未来都市“光の国”を連想させるように映った。この光景をつくり出したのは、「2016 ヤマケイ カラサワ フェスティバル」(山と渓谷社主催)。
上部に太陽のように輝くのは、涸沢ヒュッテの特設ステージの照明。突然、テント場の上空低く這(は)うように通り過ぎる霧の一団が、ステージの照明を浴びて幻想的な光の輪を浮かび上がらせ空想の世界へ誘う。
光の輪が、宇宙の未来都市のメイン基地。点在するテントの明かり一つ一つが未来都市…。メイン基地と未来都市は、光の道でつながっている。SF映画や夢の宇宙旅行へと思いが広がる。
一方、この光景は「母なる大地・涸沢」を象徴する構図でもある。テント場の夜景は、お母さんの胎盤。輝く光の輪を胎児に見立てると、まぶしく輝く光の道のへその緒でしっかりと結ばれている。
輝く光の輪の中では約300人の登山者が参加し、百名山一筆書き踏破の田中陽希さんのトークが行われている。「山の日」元年の「カラサワ フェス」の夜景に、新しい山の命の鼓動が重なり伝わってきた。
(丸山祥司)

華麗に舞う中岳の雪形「舞姫」(北アルプス・中岳=松本市)

160707sikipモルゲンロート(朝焼け)に染まる中岳の残雪の中に黒型(ネガ型)で浮かび上がり、しなやかに踊る雪形「舞姫」。右手が舞扇に届いた時が観望の最適季。今シーズンは3週間ほど早く整った=6月11日、午前4時34分。常念乗越の常念岳寄りから。ニコンD3S、ニコンEDニッコールAFVR80-400ミリ

160707sikip2

梅雨の晴れ間の北アルプス・中岳(3084メートル)に現れる雪形「舞姫」の華麗に踊る姿がリアルだ。6月11日、手前の赤沢山(2670メートル)をステージに見立て、常念乗越(のっこし=2466メートル)から、モルゲンロートに染まる艶(あで)やかな雰囲気の「舞姫」を撮ってみた。
1966(昭和41)年、この雪形を発見し命名したのは、日本の雪形研究第一人者の田淵行男さん(1905~89年)だ。左を向きしなやかに舞う女性の大きな雪形。観望最適季は、例年6月下旬から7月上旬の梅雨の真っただ中。まつげ、鼻、口元の雰囲気がそれとなく見てとれる。1982年夏、田淵さんは自宅での雪形談議で「最高傑作の雪形で、まれに見る掘り出し物」と「舞姫」を自賛していた。
田淵さんは、高山蝶(ちょう)の細密画を描く画才の持ち主だったが、雪形の絵画は一枚もない。著書「山の紋章雪形」には、雪形研究のため設立した「信濃雪形株式会社」のメンバーだった山岳画家の加藤淘綾さん(1901~87年)の絵画「舞姫」が掲載されている。
雪形と向かい合う田淵さんは、写真家に徹し、画家にはならなかった…と、常念乗越の昼下がり「舞姫」を眺めながら偲(しの)んでいると、ハイマツの上を高山蝶のタカネヒカゲが舞った。「田淵先生…見えますか」
(丸山祥司)

 

満開のニリンソウとオシドリ共演(北ア上高地・徳沢)

160521sikip満開のニリンソウの花園に現れた婚姻色に着飾ったオシドリの雄=5月13日、上高地徳沢園、ニコンD3、ニッコールED300ミリ

残雪がまぶしい穂高連峰を背景に新緑がさわやかな上高地(松本市)。この季節を代表する草花はニリンソウ。明神から徳沢にかけ、地上の銀河のように映る明るい群落が目立つ。
快晴の13日、徳沢園で満開のニリンソウの群落を撮影していると突然、婚姻色に着飾ったオシドリの雄1羽が現れた。繁殖期特有のオレンジ色のイチョウ羽が鮮やかだ。少し離れた場所には、保護色か、地味で目立たない色合いの雌の姿が。
雄がカメラに向かって近付いてくる。雌を守るための行動か?こんな番(つがい)の愛らしい光景を見ていると「仲睦まじく末永く『おしどり夫婦』のように…」、そんな結婚式でのスピーチを思い出す。確かに繁殖期、しつこく雌につきまとう雄の行動は、仲睦まじく見える。だが、実際のオシドリの番の生態は―。
1985年、日本新聞協会賞を受賞した信濃毎日新聞の「新しなの動植物記」(写真連載企画)の取材で記者が知ったオシドリの意外な生態が脳裏にやきつき離れない。「オシドリの番は雌が卵を産む頃まで。子育ては雌がする。雄はほかの雌と番になる」。教えてくれたのは、山階鳥類研究所名誉所長で鳥類学者の山岸哲さん(須坂市出身)。「おしどり夫婦」は、実態とはかい離した、理想の世界の言葉である。
(丸山祥司)

雪崩の巣の中で目覚める山小屋(北アルプス穂高連峰涸沢)

160428sikip涸沢ヒュッテ新館2階、ユキザサと呼ぶ部屋。天上から落ちた霜が床に凍り付き、冬将軍の猛威に耐えた光景が入ったばかりの光に浮かび上がる=ニコンD3、ニッコールED28-70ミリ、4月14日

深い残雪に埋もれたまま春を迎える北アルプス穂高連峰・涸沢。この氷河圏谷(カール)の底にある涸沢ヒュッテ。例年、大型連休前に行われる小屋の掘り出し作業の厳しさと苦労は、全国の山小屋にも類がない。
本隊入山1日前の14日午前、小屋の掘り出し作業の先発隊に同行。冬将軍の猛威に耐え、雪崩の巣の中で目覚める涸沢ヒュッテを目の当たりにした。
涸沢ヒュッテの目覚めは、新館2階のユキザサと呼ぶ部屋の小さな窓から始まる。真っ暗な部屋の中から一つだけ開いた小さな窓の明かりを眺めていると、涸沢に生きる2人の言葉が脳裏をよぎる。「涸沢ヒュッテの歴史は、雪崩との闘い。だが人も小屋もくじけなかった」と小林銀一会長。雪崩に「よく耐え、頑張ってくれた」と無事だった小屋に必ず語りかける山口孝社長。涸沢ヒュッテでは、小屋開け作業を親しみを込め「涸沢のお正月」と呼ぶ。
突然「おーい」。外でだれかが呼んでいる。そんな気がして小さな窓から急いで出てみた。まぶしい銀世界のステージから見上げる穂高連峰。紺碧(こんぺき)の空を切る険しい雪稜(りょう)が太古の表情で迫ってくる。岩峰岩壁を越え、ルンゼを越えて…。穂高の大自然が奏でる壮麗な春の交響詩「目覚めの刻(とき)」が聞こえてくるような気がした。
(丸山祥司)

華麗に踊るヒメオドリコソウの「フェッテ」(松本市寿小赤)

160324sikip野外のステージで踊るヒメオドリコソウ。こまのようにクルクル回転するバレエの「フェッテ」のイメージを重ね、バレリーナが見ている光景を表現してみた=ニコンD3、ニッコールED28―70ミリ

3月18日、春陽に包まれた松本市寿小赤のリンゴ畑の土手。ピンクに染まる明るい領域は、ヒメオドリコソウの群落だ。
一足早い春の息吹に目線を泳がせていると突然、奇妙な花の姿に視線が留まった。一輪が、なぜか立ち上がり踊っている。花を見詰めているとクルクルと回転を始めた。どうやらバレエの世界にスイッチが入ってしまった。無意識にカメラを回転し撮影している自分に気付く。
撮影にこだわっているのは「フェッテ」の場面。バレエ用語で正確には「グラン・フェッテ・ロン・ドゥ・ジャンブ・アン・トゥールナン」という。片足のつま先で立ち、もう一方の足を素早く蹴り出して行う回転。
32回転する白鳥の湖の「黒鳥のフェッテ」やドン・キホーテの「キトリのフェッテ」が有名だ。速い鮮やかな回転のニーナ・アナニアシヴィリさん、2014年2月のソチ五輪開会式で優雅に舞ったスヴェトラーナ・ザハロワさん、若手個性派のナタリア・オシポワさん…。次々と思いはめぐる。
記者に、言葉を超えたバレエの表現力の豊かさや奥深さを教えてくれたのは、来日40回、20世紀最高のバレリーナと称されたマイヤ・プリセツカヤさんだ。
野に咲くヒメオドリコソウ一輪に、世界のプリンシパルが踊る華麗な姿を重ね、何百枚撮っても、描くイメージとぴったり合わない撮影にひたすら挑んだ。
(丸山祥司)

雨氷の世界クリスタルファンタジー(松本市内田・崖の湯温泉)

160227sikip陽光を浴びて煌めき、幻想的な世界を演出する雨氷。見る人の心を癒やし、光の宝物を届ける=ニコンD3、ニッコールED300ミリ、2月4日、松本市内田(崖の湯温泉)

1月末から2月初めにかけ、松塩地域の標高800~約1000メートル付近で、過冷却となった雨が樹木などに纏(まと)わり凍り付く雨氷(うひょう)現象が見られた。倒木や停電など被害の規模は近年にないほど大きかった。一方、雨氷がつくりだす壮麗な光景は、氷細工の世界を連想させ、まさにクリスタルファンタジー。
青空を背景に太陽光を浴びると、キラキラと強烈なまぶしさを放つ。雨氷現象は珍しくはないが、今回は何日も解けず多くの人の目に触れた。「生まれて初めて」とか「60年生きて来たが見たことがない」など自分の人生を重ねて語るほど衝撃的な光彩に映った。
言葉でこの光景を伝えるのは難しい。そう思いながらも脳裏に次々と似た言葉が並ぶ。「光る」だけでもない。「輝く」では物足りない。ダイヤモンドのような雨氷の透明さが際立つキラキラした光彩は「煌(きら)めく」が一番似合う。
差し込む太陽光の角度によって、雨氷は壮大なプリズムに変わり、光は魔術師になる。心のカメラのファインダーに描かれた水玉模様の「虹色のページェント」。雨氷のステージで光の精たちがにぎやかに奏でながら風のリズムに合わせ踊っている。どうやら雨氷と光が演出する幻想的な真昼の舞踏会に記者は招待されてしまったようだ。
(丸山祥司)

大自然の造形、壮麗なアイスカーテン(木曽町三岳)

160204sikip

「立待月」に照らされて輝く氷柱群に、冬の星座が共演。脳裏に描く光景に最も近付けるため、あえて87枚のコンポジット撮影(比較明合成)の特性を生かし表現してみた=ニコンD800E、ニッコールED17-35ミリ、1月26日午後11時45分から30分間撮影

木曽町三岳の町指定文化財「白川の氷柱群」。高さ約50メートル、幅約250メートルに及ぶ壮麗なエメラルドグリーンのアイスカーテンが厳寒の木曽路の美観を際立たせている。
氷点下11.5度。満天の星空となった1月26日から27日へ日付が変わる時間帯、脳裏に浮かび描く幻想的な氷柱群の撮影に挑んだ。その光景は…月明かりに照らされ浮かび上がる氷柱群と一等星をちりばめて輝く冬の星座とのコラボレーションである。ストロボも人工光線(ライトアップ)も無用の世界。
撮影の鍵は、氷柱群に絡む星座の位置と月の位置のタイミングにある。日周運動などから撮影日と時間を割り出した。頭上付近に冬のダイヤモンド(シリウス、プロキオン、ポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルの1等星を結んだ六角形)が輝き、月の斜光線の角度が氷柱群に立体感を出すレンブラントライティングになるのは、26日の「立待月(たちまちづき)」(17日目の月)だ。
午後9時半すぎ、ライトアップの照明が消えた。浮かび上がったのは、月に照らされた氷柱群と満天の星空。凛(りん)とした幽玄神秘な雰囲気が漂う“厳寒のステージ”にただ一人立った。足元の西野川の瀬音が静寂の中に太古の鼓動を刻む。オリオンとシリウスが頭上の木立に冬の詩(うた)を編んでいく感動の光景に、記者の心のカメラのシャッターが動いた。(丸山祥司)

 

厳寒の上高地 春待つニホンザル(松本市)

160103sikip

太古の表情を見せる白銀の穂高連峰を背景に樹上で休むニホンザル。厳寒の上高地で越冬し雪の中で命をつなぐ=ニコンD3、ニッコールED80-200ミリ、2015年12月20日、上高地大正池付近

 
今年の干支(えと)は申(さる)。日本にいるニホンザルは、人間を除く霊長類の中では最も北に生息する。雪の中で生きるサルは珍しく研究者たちが注目。世界の人々から「スノーモンキー」と呼ばれている。
「全国で最も厳しい環境に生息するのは、上高地で越冬するニホンザル」と信大山岳科学研究所教授の泉山茂之さん(動物生態学)に以前聞いた記憶がある。
雪に閉ざされた冬の上高地は、氷点下20度を超えることも。昨年12月20日、極寒に耐えて越冬するニホンザルに急に会いたくなって、冬季閉鎖された暗い釜トンネルを歩き早朝、氷点下11度と冷え込む上高地に入った。
サルの群れを探して小梨平まで歩く。大正池付近と小梨平では、雪上に樹皮を食べたハルニレの小枝が散在。河童橋周辺では、エゾヤナギの樹皮がはがれた木も。昼下がりの帰路、大正池付近でようやく群れに出会えた。冬の上高地のニホンザルの主食は、ハルニレ、エゾヤナギなどの広葉樹の樹皮やシナノザサの葉。水生昆虫の幼虫も食べる。
スノーモンキーと呼ばれる仲間には、決まった時間の給餌や“温泉付き”もある。だが厳寒の上高地で越冬するニホンザルには無縁(猿)だ。ひたすら樹皮とササの葉を食べ、必死に命をつなぎ、好物の草木が芽吹く本格的な春をじっと待っている。
(丸山祥司)

鉢伏山で出合った金星、木星と火星の共演(松本市・岡谷市)

151107sikip

鉢伏山山頂の「鉢伏大権現」の祠の上で繰り広げる天体ショー。金星(右)と木星が並んで輝き、火星(左下方に赤く見える)が共演。幽玄神秘な雰囲気が辺りを包む=ニコンD3、ニッコールED80―200ミリ、10月26日午前3時20分

松本市と岡谷市の境にある鉢伏山(1928・5メートル)。山岳信仰の山として知られ、昔から「雨乞い神事」が行われてきた神聖なる山だ。
10月26日未明、この鉢伏山の山頂で金星と木星、火星が接近し共演する天体ショーに出合った。
午前1時半。誰もいない氷点下3度の山頂は、枯草を揺らし、耳元で不気味に騒ぐ風の音があるだけだった。祀(まつ)られた鉢伏神社の前に立つ。十三夜の月の光が鳥居の影を映し「鉢伏大権現」の祠(ほこら)を浮かび上がらせる。身が引き締まる凛(りん)とした光景だ。
午前2時55分。金星と木星が寄り添い、鉢伏大権現の祠の真上に昇る。金星のきらめきが、星とは思えないほどまぶしい。後を追うように赤ら顔の火星が祠の上に輝く鉢伏山で観望する天体ショー。こんな神秘で壮麗な光景を前にした時、人はただ祈るしかない。撮らせてもらった大自然との感動の出合いに感謝し、思わず般若心経を唱えた。
午前3時50分。月が沈むと天頂に1等星6個を結んだ「冬のダイヤモンド」が豪華に輝く。北斗七星がひしゃくの柄を立て、南天の地平線付近にカノープスがきらり。朝焼けが始まった東の空に輝くおとめ座のスピカが一際明るい。希望と幸せの新しい朝を連れて昇ってきた。
(丸山祥司)

中秋の名月に風見鶏と珍客共演(安曇野市豊科)

151008sikip輝く特大の中秋の名月のステージで風見鶏と珍客のカラスが背を向け合い共演。右だ、左だ!と揺れ動く世相の光景が重なる=ニコンD3、ニッコールED600ミリ、9月27日、安曇野市豊科

今年の中秋の名月は9月27日。名月といえば満月を連想するが、満月は28日。楕(だ)円軌道の月が1年で最も地球に近づき、通常より大きく見えるため、「スーパームーン」とも呼ばれている。NASA(米航空宇宙局)の観測によると最小に見える時の満月より14%大きく、30%も明るい。
中秋の名月もスーパームーンも同じと思えばいい。27日、あれこれと撮影への期待を膨ませながら、安曇野市豊科の県立こども病院へと急いだ。思い立ったのは高い時計台先端部を飾る風見鶏と月のコラボレーションである。早速600ミリレンズ付きカメラを構え、収穫が終わった稲株の香りが漂う田んぼの中で、月の昇るのを待った。
午後5時58分。東に連なる里山の稜線(りょうせん)が急激に明るさを増し、中秋の名月が昇る。大きい!予想以上のお盆を連想させる特大の月の中にシルエットの風見鶏が浮かび上がる。
すると突然、カアー。風の方位を示す矢に珍客のカラスが鳴きながらとまった。南を向く鶏、北を向くカラス。名月のステージで演じるコミカルでユーモラスな雰囲気が漂う。
波風立つ昨今の世相を風刺しているようにも映る。風見鶏の矢は、人類の幸せと平和の方向を常に向いていてほしい―。そんな願いを込めながらカメラのシャッターを切った。(丸山祥司)