カテゴリー別アーカイブ: 四季彩

雪崩の巣の中で目覚める山小屋(北アルプス穂高連峰涸沢)

160428sikip涸沢ヒュッテ新館2階、ユキザサと呼ぶ部屋。天上から落ちた霜が床に凍り付き、冬将軍の猛威に耐えた光景が入ったばかりの光に浮かび上がる=ニコンD3、ニッコールED28-70ミリ、4月14日

深い残雪に埋もれたまま春を迎える北アルプス穂高連峰・涸沢。この氷河圏谷(カール)の底にある涸沢ヒュッテ。例年、大型連休前に行われる小屋の掘り出し作業の厳しさと苦労は、全国の山小屋にも類がない。
本隊入山1日前の14日午前、小屋の掘り出し作業の先発隊に同行。冬将軍の猛威に耐え、雪崩の巣の中で目覚める涸沢ヒュッテを目の当たりにした。
涸沢ヒュッテの目覚めは、新館2階のユキザサと呼ぶ部屋の小さな窓から始まる。真っ暗な部屋の中から一つだけ開いた小さな窓の明かりを眺めていると、涸沢に生きる2人の言葉が脳裏をよぎる。「涸沢ヒュッテの歴史は、雪崩との闘い。だが人も小屋もくじけなかった」と小林銀一会長。雪崩に「よく耐え、頑張ってくれた」と無事だった小屋に必ず語りかける山口孝社長。涸沢ヒュッテでは、小屋開け作業を親しみを込め「涸沢のお正月」と呼ぶ。
突然「おーい」。外でだれかが呼んでいる。そんな気がして小さな窓から急いで出てみた。まぶしい銀世界のステージから見上げる穂高連峰。紺碧(こんぺき)の空を切る険しい雪稜(りょう)が太古の表情で迫ってくる。岩峰岩壁を越え、ルンゼを越えて…。穂高の大自然が奏でる壮麗な春の交響詩「目覚めの刻(とき)」が聞こえてくるような気がした。
(丸山祥司)

華麗に踊るヒメオドリコソウの「フェッテ」(松本市寿小赤)

160324sikip野外のステージで踊るヒメオドリコソウ。こまのようにクルクル回転するバレエの「フェッテ」のイメージを重ね、バレリーナが見ている光景を表現してみた=ニコンD3、ニッコールED28―70ミリ

3月18日、春陽に包まれた松本市寿小赤のリンゴ畑の土手。ピンクに染まる明るい領域は、ヒメオドリコソウの群落だ。
一足早い春の息吹に目線を泳がせていると突然、奇妙な花の姿に視線が留まった。一輪が、なぜか立ち上がり踊っている。花を見詰めているとクルクルと回転を始めた。どうやらバレエの世界にスイッチが入ってしまった。無意識にカメラを回転し撮影している自分に気付く。
撮影にこだわっているのは「フェッテ」の場面。バレエ用語で正確には「グラン・フェッテ・ロン・ドゥ・ジャンブ・アン・トゥールナン」という。片足のつま先で立ち、もう一方の足を素早く蹴り出して行う回転。
32回転する白鳥の湖の「黒鳥のフェッテ」やドン・キホーテの「キトリのフェッテ」が有名だ。速い鮮やかな回転のニーナ・アナニアシヴィリさん、2014年2月のソチ五輪開会式で優雅に舞ったスヴェトラーナ・ザハロワさん、若手個性派のナタリア・オシポワさん…。次々と思いはめぐる。
記者に、言葉を超えたバレエの表現力の豊かさや奥深さを教えてくれたのは、来日40回、20世紀最高のバレリーナと称されたマイヤ・プリセツカヤさんだ。
野に咲くヒメオドリコソウ一輪に、世界のプリンシパルが踊る華麗な姿を重ね、何百枚撮っても、描くイメージとぴったり合わない撮影にひたすら挑んだ。
(丸山祥司)

雨氷の世界クリスタルファンタジー(松本市内田・崖の湯温泉)

160227sikip陽光を浴びて煌めき、幻想的な世界を演出する雨氷。見る人の心を癒やし、光の宝物を届ける=ニコンD3、ニッコールED300ミリ、2月4日、松本市内田(崖の湯温泉)

1月末から2月初めにかけ、松塩地域の標高800~約1000メートル付近で、過冷却となった雨が樹木などに纏(まと)わり凍り付く雨氷(うひょう)現象が見られた。倒木や停電など被害の規模は近年にないほど大きかった。一方、雨氷がつくりだす壮麗な光景は、氷細工の世界を連想させ、まさにクリスタルファンタジー。
青空を背景に太陽光を浴びると、キラキラと強烈なまぶしさを放つ。雨氷現象は珍しくはないが、今回は何日も解けず多くの人の目に触れた。「生まれて初めて」とか「60年生きて来たが見たことがない」など自分の人生を重ねて語るほど衝撃的な光彩に映った。
言葉でこの光景を伝えるのは難しい。そう思いながらも脳裏に次々と似た言葉が並ぶ。「光る」だけでもない。「輝く」では物足りない。ダイヤモンドのような雨氷の透明さが際立つキラキラした光彩は「煌(きら)めく」が一番似合う。
差し込む太陽光の角度によって、雨氷は壮大なプリズムに変わり、光は魔術師になる。心のカメラのファインダーに描かれた水玉模様の「虹色のページェント」。雨氷のステージで光の精たちがにぎやかに奏でながら風のリズムに合わせ踊っている。どうやら雨氷と光が演出する幻想的な真昼の舞踏会に記者は招待されてしまったようだ。
(丸山祥司)

大自然の造形、壮麗なアイスカーテン(木曽町三岳)

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「立待月」に照らされて輝く氷柱群に、冬の星座が共演。脳裏に描く光景に最も近付けるため、あえて87枚のコンポジット撮影(比較明合成)の特性を生かし表現してみた=ニコンD800E、ニッコールED17-35ミリ、1月26日午後11時45分から30分間撮影

木曽町三岳の町指定文化財「白川の氷柱群」。高さ約50メートル、幅約250メートルに及ぶ壮麗なエメラルドグリーンのアイスカーテンが厳寒の木曽路の美観を際立たせている。
氷点下11.5度。満天の星空となった1月26日から27日へ日付が変わる時間帯、脳裏に浮かび描く幻想的な氷柱群の撮影に挑んだ。その光景は…月明かりに照らされ浮かび上がる氷柱群と一等星をちりばめて輝く冬の星座とのコラボレーションである。ストロボも人工光線(ライトアップ)も無用の世界。
撮影の鍵は、氷柱群に絡む星座の位置と月の位置のタイミングにある。日周運動などから撮影日と時間を割り出した。頭上付近に冬のダイヤモンド(シリウス、プロキオン、ポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルの1等星を結んだ六角形)が輝き、月の斜光線の角度が氷柱群に立体感を出すレンブラントライティングになるのは、26日の「立待月(たちまちづき)」(17日目の月)だ。
午後9時半すぎ、ライトアップの照明が消えた。浮かび上がったのは、月に照らされた氷柱群と満天の星空。凛(りん)とした幽玄神秘な雰囲気が漂う“厳寒のステージ”にただ一人立った。足元の西野川の瀬音が静寂の中に太古の鼓動を刻む。オリオンとシリウスが頭上の木立に冬の詩(うた)を編んでいく感動の光景に、記者の心のカメラのシャッターが動いた。(丸山祥司)

 

厳寒の上高地 春待つニホンザル(松本市)

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太古の表情を見せる白銀の穂高連峰を背景に樹上で休むニホンザル。厳寒の上高地で越冬し雪の中で命をつなぐ=ニコンD3、ニッコールED80-200ミリ、2015年12月20日、上高地大正池付近

 
今年の干支(えと)は申(さる)。日本にいるニホンザルは、人間を除く霊長類の中では最も北に生息する。雪の中で生きるサルは珍しく研究者たちが注目。世界の人々から「スノーモンキー」と呼ばれている。
「全国で最も厳しい環境に生息するのは、上高地で越冬するニホンザル」と信大山岳科学研究所教授の泉山茂之さん(動物生態学)に以前聞いた記憶がある。
雪に閉ざされた冬の上高地は、氷点下20度を超えることも。昨年12月20日、極寒に耐えて越冬するニホンザルに急に会いたくなって、冬季閉鎖された暗い釜トンネルを歩き早朝、氷点下11度と冷え込む上高地に入った。
サルの群れを探して小梨平まで歩く。大正池付近と小梨平では、雪上に樹皮を食べたハルニレの小枝が散在。河童橋周辺では、エゾヤナギの樹皮がはがれた木も。昼下がりの帰路、大正池付近でようやく群れに出会えた。冬の上高地のニホンザルの主食は、ハルニレ、エゾヤナギなどの広葉樹の樹皮やシナノザサの葉。水生昆虫の幼虫も食べる。
スノーモンキーと呼ばれる仲間には、決まった時間の給餌や“温泉付き”もある。だが厳寒の上高地で越冬するニホンザルには無縁(猿)だ。ひたすら樹皮とササの葉を食べ、必死に命をつなぎ、好物の草木が芽吹く本格的な春をじっと待っている。
(丸山祥司)

鉢伏山で出合った金星、木星と火星の共演(松本市・岡谷市)

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鉢伏山山頂の「鉢伏大権現」の祠の上で繰り広げる天体ショー。金星(右)と木星が並んで輝き、火星(左下方に赤く見える)が共演。幽玄神秘な雰囲気が辺りを包む=ニコンD3、ニッコールED80―200ミリ、10月26日午前3時20分

松本市と岡谷市の境にある鉢伏山(1928・5メートル)。山岳信仰の山として知られ、昔から「雨乞い神事」が行われてきた神聖なる山だ。
10月26日未明、この鉢伏山の山頂で金星と木星、火星が接近し共演する天体ショーに出合った。
午前1時半。誰もいない氷点下3度の山頂は、枯草を揺らし、耳元で不気味に騒ぐ風の音があるだけだった。祀(まつ)られた鉢伏神社の前に立つ。十三夜の月の光が鳥居の影を映し「鉢伏大権現」の祠(ほこら)を浮かび上がらせる。身が引き締まる凛(りん)とした光景だ。
午前2時55分。金星と木星が寄り添い、鉢伏大権現の祠の真上に昇る。金星のきらめきが、星とは思えないほどまぶしい。後を追うように赤ら顔の火星が祠の上に輝く鉢伏山で観望する天体ショー。こんな神秘で壮麗な光景を前にした時、人はただ祈るしかない。撮らせてもらった大自然との感動の出合いに感謝し、思わず般若心経を唱えた。
午前3時50分。月が沈むと天頂に1等星6個を結んだ「冬のダイヤモンド」が豪華に輝く。北斗七星がひしゃくの柄を立て、南天の地平線付近にカノープスがきらり。朝焼けが始まった東の空に輝くおとめ座のスピカが一際明るい。希望と幸せの新しい朝を連れて昇ってきた。
(丸山祥司)

中秋の名月に風見鶏と珍客共演(安曇野市豊科)

151008sikip輝く特大の中秋の名月のステージで風見鶏と珍客のカラスが背を向け合い共演。右だ、左だ!と揺れ動く世相の光景が重なる=ニコンD3、ニッコールED600ミリ、9月27日、安曇野市豊科

今年の中秋の名月は9月27日。名月といえば満月を連想するが、満月は28日。楕(だ)円軌道の月が1年で最も地球に近づき、通常より大きく見えるため、「スーパームーン」とも呼ばれている。NASA(米航空宇宙局)の観測によると最小に見える時の満月より14%大きく、30%も明るい。
中秋の名月もスーパームーンも同じと思えばいい。27日、あれこれと撮影への期待を膨ませながら、安曇野市豊科の県立こども病院へと急いだ。思い立ったのは高い時計台先端部を飾る風見鶏と月のコラボレーションである。早速600ミリレンズ付きカメラを構え、収穫が終わった稲株の香りが漂う田んぼの中で、月の昇るのを待った。
午後5時58分。東に連なる里山の稜線(りょうせん)が急激に明るさを増し、中秋の名月が昇る。大きい!予想以上のお盆を連想させる特大の月の中にシルエットの風見鶏が浮かび上がる。
すると突然、カアー。風の方位を示す矢に珍客のカラスが鳴きながらとまった。南を向く鶏、北を向くカラス。名月のステージで演じるコミカルでユーモラスな雰囲気が漂う。
波風立つ昨今の世相を風刺しているようにも映る。風見鶏の矢は、人類の幸せと平和の方向を常に向いていてほしい―。そんな願いを込めながらカメラのシャッターを切った。(丸山祥司)

氷河時代から命つなぐ花と鳥が共演(北アルプス・燕岳)

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氷河期の生きた化石とも言われるコマクサとライチョウが花園でデュエット。長い時の流れを越えて燕岳に命の歌が聞こえる宝物の朝が訪れた(7月24日午前5時5分、燕山荘付近で、ニコンD3、ニッコールED80~200ミリ)

命が躍動する盛夏の北アルプス燕岳(2763メートル)。7月下旬、燕山荘近くで幸運にも氷河時代から連綿と命をつなぐコマクサとライチョウが共演する憧れの光景に出合った。
「高山植物の女王」と呼ばれるケシ科のコマクサ。駒(馬)の顔の形に似たピンクの優しい可憐(かれん)な花風情は、女王によく似合っている。
ところがイメージの女王とは裏腹に、他の植物が生育できない環境下の強風や乾燥の絶悪な砂礫(れき)地にまず最初に根付くパイオニア植物である。女王には女王の孤高の生き方があるのだろう…と考えていると、早朝のコマクサの花園にライチョウ家族が現れた。親鳥(メス)に6羽のヒナが寄り添いほほえましい光景だ。無事ヒナが育ってほしいと願う。
ライチョウは、国の特別天然記念物。およそ2万年前の氷河期に大陸から日本へ渡ってきたとされる。環境省のレッドリストでは絶滅危惧種。現在の生息数は、2000羽弱といわれている。
燕岳は、20年ほど前キツネが稜線(りょうせん)に現れライチョウが姿を消した。「最近、姿が見られるようになり、この大自然の宝物を後世に大切に伝えていきたい」とディナートークで登山者に自然保護への協力を呼びかける赤沼健至社長の言葉が優しく温かかった。
(丸山祥司)

ロマン誘う槍ケ岳を包む夕日(松本市)

150609sikipシルエットの槍ケ岳を包む壮麗な夕日。動の太陽と静の槍ケ岳が演じる光彩が原始の感動へ誘う=ニコンD3、ニッコールED1200ミリ、ND400、6月5日午後6時36分、弘法山古墳に近い開成中学校から

「夏至」が近付くと、この時季にしか見られない、槍ケ岳を包む壮麗な夕日が気になる。
太陽の南中高度が最も高い夏至の朝日や夕日の方位は、太古から重要視され、現代に至っても、その神秘さを漂わせ不思議である。
沈む太陽の中に槍ケ岳が影絵か切り絵のようにシルエットに浮かび上がる、原始の感動を呼び起こす夏至前後の夕日は、松本市中山地区周辺から観望できる。この母なる太陽と父なる槍ケ岳が重なる、壮大でまぶしい陰陽の世界は、新しい命を創造する根源の構図だ。
記者がこの光景にこだわり撮って20年。撮影するたびに、「犀龍・泉小太郎」伝説にある、かつて湖だった松本平の太古の原風景を脳裏に描いてみる。
構えるカメラの前には、太陽、槍ケ岳、弘法山古墳、和泉地区、背後には鉢伏山がある。この神聖なる光のライン上に浮かび上がってくるのが「犀龍・泉小太郎」伝説。母の犀龍が泉小太郎を産んだのは鉢伏山麓。目の前の和泉地区は、小太郎が育った場所の一つとされている。この光のラインに弘法山古墳があるのは偶然とは思えない。想像をかきたててやまない。
槍ケ岳を包む夕日のドラマに、美しい松本市再発見へのロマンが広がる。
(丸山祥司)

桜花に浮かぶ「弘法山古墳」春景色(松本市)

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桜花が映える「弘法山古墳」。自分の領域を精いっぱい彩る一本一本の桜が、互いに支え合い助け合って共演すると壮麗な春景色に輝くことを現代人に教えている=4月12日午後1時半、ニコンD3、ニコールED600ミリ

桜花爛漫(らんまん)の松本市の国史跡「弘法山古墳」。望遠レンズで撮影すると満開の桜の海原にぽっかりと浮かぶ島のようだ。
以前はニセアカシアに覆われていたが伐採し、1985(昭和60)年に桜を植樹。当時、約4000本を植え、木の成長とともに間伐、現在はざっと2000本が咲き誇る。県内有数の“桜名所”だ。
桜の花言葉は「純潔」「心の美」「精神美」など。桜にまつわる言葉を列記すると、桜前線、開花宣言、何分咲き、桜花爛漫、花霞(がすみ)、さくら吹雪、花筏(いかだ)など数多い。
「桜七日」という言葉があるように、一斉にパッと咲き、またパッと散っていく。美しさとはかなさを併せ持つ桜の花風情に、日本人は人生観を重ね合わせて眺め、愛(め)でてきた。
平安の昔から多くの歌人や俳人に詠まれ、これほど日本人の精神面に影響を与えた花はない。この桜を100回見ることが難しいほど、人生ははかなく短い。カメラのファインダーで構図を決めながら、江戸時代の僧侶で歌人の良寛和尚の有名な句が脳裏をよぎる。「散る桜残る桜も散る桜」。
この春、出合った桜花に感謝し、一期一会の気持ちで愛でながら見届けたい。桜は、癒やしと生きる力を与えてくれる人生の“応援花”である。
(丸山祥司)