雪形の獅子の顔は国宝級(大町市社)

140524sikip鹿島槍ケ岳に現れる「獅子」の雪形の顔。鋭いまなざしに威厳も感じる形相だ(ニコンD800E、ニッコールED1200㍉、PL、5月13日、大町市社)

北アルプスの信州側に現れる雪形が、今にぎやかだ。松本平から白馬地方にかけ28体を数える。
農事暦として伝えられてきた雪形は、先人たちが自然に順応し生きた証しであり、山名の由来にもなっている。躍動感がある白馬岳の「代掻(か)き馬」はトップスター。プリマドンナは蝶ケ岳の「蝶」。今にも稜線(りょうせん)から大空へ舞い上がるかのようだ。五竜岳には戦国武将の紋所の「武田菱」=「御菱(ごりょう)」が。2人の「種まき爺(じい)さん」が共演する爺ケ岳、常念岳には托鉢(たくはつ)姿の「常念坊」が祈りの世界を伝える。
双耳峰の雄姿を誇る鹿島槍ケ岳。南側の大冷沢(おおつべたざわ)源頭部の岩壁に現れる「獅子と鶴」は雪形絵巻さながらだ。
1978(昭和53)年6月、日本の雪形研究第一人者の田淵行男さん(1905-89年)宅に、宮田村の民俗学者、向山雅重さん(1904-90年)が訪れたときのこと。2人の雪形談議は弾み、獅子と鶴の雪形は「国宝級の岳の屏風(びょうぶ)絵」と称賛。獅子の顔は特にリアル。たてがみや鋭い目、開いた口には牙も見え、格調高い風格と威厳ある表情で迫ってくる。
今年も陽春に輝く獅子と鶴の雪形を撮った。時を経ても変わらない獅子の表情に、人の命のはかなさが重なって見えた。あの時、笑顔で語った2人の巨匠をしのび、冥福を祈った。
(丸山祥司)