試練の時どう乗り切るか 4者に聞く

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県内サッカークラブで初めてJ1に挑んだ昨年だったが、降格が決まった松本山雅FC。これまで順調にステップを上がってきたクラブにとって、わずか1年でのカテゴリーのダウンは、初めて迎える「試練」と言ってもいい。
クラブと地域が手を携えて再びJ1へ、さらにその先へと成長曲線を描いていくために、2016年シーズンはどう臨めばよいか。山雅を取り巻くさまざまな立場の代表者に聞いた。

【ホームタウン】松本市文化スポーツ部長・寺沢和男さん
松本市では、昨年4月に完成したかりがねサッカー場の優先利用への配慮や、市内8カ所でのパブリックビューイング実施、アウェー観客向けの観光・グルメマップ作成・配布といった支援を行いました。クラブと地域の絆の後押しにできる範囲で徹する、側面支援のスタンスです。
昨年は4市1村合同のホームタウンデーを9月に初めて行い、横のつながりを広げることができた点も大きな収穫でした。今後さらに発展させ、連携を探りたいと考えています。
山雅のJ1参戦による県内への経済波及効果が54億円余にのぼったと、市内の民間シンクタンクが発表しました。すごかった前年の試算を11億6000万円上回っています。要因の1つとして、アウェー観客の入り込みは予想以上でした。
私もスタジアムに足を運び、アウェー観客と言葉を交わした中で、「山雅の一体感ある応援を見に来た」と聞いたのは、非常に印象的でした。
プレーするだけでなく、見る、支える、応援するといった、多様なスポーツとの関わり方とその楽しみを、山雅は教えてくれています。地域活性化と言うとき、山雅を軸に家族の絆が深まる、新たな仲間ができる、生きがいが生まれる-といった、数字や形に表れない効果こそが大事だと思っています。
アウェー観客は昨年より減るでしょう。J2クラブはJ1に比べ、総じて観客の絶対数が少ないので、仕方ない部分はあります。その減少分をどう受け止め、モチベーションを上げていけるか。今までの勢いを証明する正念場です。
ただ、結果はどうであれ、諦めず戦い抜く山雅スタイルにこそ、われわれは感動してきました。
悲観はしていないし、上位争いに絡めば、より盛り上がるかもしれない。引き続き、可能な限りの協力をしていきたいと思います。

【試合運営ボランティア】「チームバモス」代表・豊岡圭さん
想定通りできた部分と、そうでなかった部分とがありました。観戦ルールの変更もありましたし、J2の満員とJ1の満員とはやはり違い、大変でした。
アウェー観客が多くなるという点は分かっていましたが、想像以上に人の流れが速かったり、初めて来る人も多かったりと、14年までとは明らかに勝手が違った。昨年から行われた再入場の対応も、慣れるまでは時間がかかってしまいました。
日程の都合で連戦も多く、裏方として苦労した部分もありました。それでも、お客さんに大きなトラブルがなかったことには、胸をなで下ろしています。
昨年のボランティア登録者数366人は過去最大です。1試合あたりの参加者は120人余。14年までは多かったとも感じましたが、昨年は必要と見込んだ人数には結果的に足りなかった、という印象があります。
ただ、再入場担当者を置いたり、あまりできていなかったごみ回収を強化したりということもあり、単にJ1になったことだけが要因とは言い切れないでしょう。
もちろん人集めの難しさもある。「ここは警備員のほうがいい」「ここはお客さんの目線に近いボランティアがいい」といったように精査しながら、クラブと一緒に適正な人数を探っていくことが課題です。
J2降格が試練だとは思っていません。われわれが目指すのはカテゴリーに関係なく、「満員」の試合が続いても当たり前に観戦してもらえることです。
マラソンに例えれば、昨年は完走することに懸命でした。今年はペースも考えながら、勝てる走りを考えなくてはなりません。
昨年の反省を生かし、またJ1に上がったときに向けてベースをつくる、大事な年になるでしょう。

【運営会社】松本山雅副社長、事業本部長・上條友也さん
クラブの収益事業としては、広告、入場料、物販と、大きな3つの柱があります。昨年はそのどれもが14年より大幅に数字を伸ばし、全体の収入では2倍近くになりました。年初の見込みよりも大きな数字です。
J1に上がったことで広告料、入場料ともに引き上げたのですが、幸い多くのスポンサーの皆さまにご協力いただけましたし、スタジアムの観客収容率もJ1でトップ。クラブ創立50周年関係のプロモーションもあって、物販も好調でした。
もちろん課題はたくさんあり、これでいいというわけではありませんが、これまで積み上げてきたことのブラッシュアップ(磨き上げ)でJ1初年度を乗り切れたことは、クラブ運営の自信になりました。
J2で戦う今年、やはり入場者数が減ることは避けられないでしょう。それでも、再びJ1に上がった時の土台を築くためには、収入の維持が欠かせません。全般的に広告料と入場料は据え置き、特に入場料は一部引き上げを決めました。
広告料については、私も含む営業の努力でスポンサーに一層の理解と協力をお願いしていきます。入場料に関しては、集客のためのさらなる魅力づくりに取り組まなくてはなりません。
例えば、昨年はホーム試合時にイベントを行うファンパーク(12号広場)を活用しきれなかったという反省があります。ここを充実させ、試合以外に楽しんでもらえる催しをもっと増やすべく、知恵を絞っていきます。
引き続き地域を盛り上げていけるか、心配はあります。しかし何よりも、いかに魅力あるクラブにしていけるか、それを発信していけるか、われわれにかかっています。
社内でも、「われわれが今まで以上に汗をかかなくてはいけないよ」と伝えています。今年こそ、クラブの力が試されるでしょう。

【育成組織】ユースアカデミーダイレクター・山﨑(●)武さん
昨年はU-18(18歳以下)の1stチームが県2部リーグで優勝し、1部に自動昇格。U-12が初めて全日本少年大会県予選を制し、全国大会に出場を決めるなど、トップチームのJ1昇格に後押しされるように、小、中、高、全ての年代が結果を出してくれました。
もちろん結果が全てではありませんが、やり続けてきたことは間違っていなかった、との思いを強めることができました。
トップがJ1で戦ったからこそ見えてきたものが、ユースにもあります。
松本市かりがねサッカー場ができて、トップの選手が練習している隣のグラウンドを使わせてもらい、これまで以上の注目を選手たちが実感しながら戦えたこともあるでしょう。
一方で、監督や選手があれだけ一生懸命やっても通用しない場合がある。子どもたちがJ1の厳しさを目の当たりにできたことも収穫です。
ただ、われわれの最大の使命は、地域貢献とプロ選手の輩出です。Jクラブの育成組織としては、本当にまだまだ。地域の既存団体とうまく連携しながら、県内の育成年代の「当たり前」のレベルを変え、プロ選手に至るモデルを示していかなくてはなりません。そのためには選手だけでなく、われわれ指導する大人も、もっと成長する必要があります。
それはもちろん、将来的にトップチームがJ1で効率よく戦い続けるための鍵でもある。今年、ユースアカデミーアドバイザーとして岸野靖之さんを招いたことは、クラブの決意表明でもあると考えています。
育成組織の場合、1段飛ばしの成長はできません。J2のアカデミーだからできない、やらないではなく、たゆまず歩みを進めるしかないと思っています。
●=崎の大が立の下の横棒なし
(長岩将弘)