大自然の補色が演じる命のドラマ(穂高連峰涸沢カール・松本市)

170817sikip周囲の緑の中で季節外れに紅葉したウラジロナナカマドの病葉が鮮やかに映える。撮影3日後に雨に打たれ静かに旅立った=7月27日、ニコンD3S、ニコンED AF VR-ニッコール80~400ミリ、涸沢ヒュッテ下部

緑豊かに繁茂し、命が躍動する盛夏の穂高連峰・涸沢カール。雨上がりの7月27日午後。涸沢ヒュッテ近くの登山道脇で、季節外れに紅葉した鮮やかなウラジロナナカマドの病葉(わくらば)に出会った。
一面に広がる緑の領域に遠目にも際立つ真っ赤な小さな光彩。だが、急登の岩の道に登山者の疲労は極限に達し、誰一人として振り向く人はいない。
「病葉」と書き「わくらば」の読みを当てているのはなぜか。辞典で調べると「病気や虫のために変色した葉。特に、夏の青葉の中にまじって赤や黄色に色付いている葉」とある。視覚的な現象面を捉えた説明で分かりやすい。病葉は俳句の「夏の季語」でもあり、一足も二足も早く散っていく命だ。はかなさ、悲しさ、寂しさ、むなしさ…。俳句の世界での「病葉」に秘められた叙情的な奥深い意味の光景が伝わってくる。
緑のステージで、真っ赤な衣装をまとって舞うプリマドンナのようなウラジロナナカマドの病葉。残された命の短さを悟り、有終の美を飾る決意の表れの彩りか。全国に誇る山岳紅葉の涸沢が見せる真夏のまぼろし。
緑と赤の補色が、鮮やかなコントラストで演じる大自然の命のドラマは、美しくもなぜか切ない。
(丸山祥司)