取り戻したい美ケ原〝花舞台〟(松本市・美ケ原高原)

150103sikip紺碧の空に霧氷と新雪が輝く美ケ原高原。この美しく見える冬景色の中に草原の危機のシグナルが潜んでいる(ニコンD3、ニッコールED300ミリ、偏光フィルター)

12月上旬、冬型の気圧配置が強まり寒波襲来の松本市の美ケ原高原は、霧氷と降雪が同時に訪れた。つかの間広がった紺碧(こんぺき)の空を背景に霧氷と雪化粧を撮影していると、5頭のホンシュウジカがフルスピードで目の前を横切った。
ホンシュウジカが駆け抜けた山肌一面に広がるのは、シナノザサの大群落。草原はおろか、変わり果てた光景に思わず息をのむ。
マツムシソウ、ノアザミ、ツリガネニンジン、ヤナギラン…。30年前、ここは花々が咲き乱れる美しい草原だった。夏から秋にかけ彩り鮮やかに咲き競う花暦の数は、ざっと400種とも。「花の王国」「百花繚乱(りょうらん)」は、美ケ原を言い表すのにふさわしい言葉だった。
大町市在住の写真家、増村征夫さんや、王ケ頭ホテル会長の小澤蔵生さんの写真集に「花の王国」の往時がしのばれる。あの華やかな草原はもうない。猛威をふるうシナノザサの繁茂と異常に増え過ぎたホンシュウジカによる食害が深刻化。花の美ケ原に赤信号がともる。
冬景色に浮かび上がるシナノザサの群落とホンシュウジカの群れは、草原の危機のシグナルのように映る。「〝花舞台〟を取り戻し、後世に伝えたい」―。そんな願いを込めシャッターを切った。
(丸山祥司)